茅野市役所→❶御射鹿池→❷笹原地区→❸京都造形芸術大学附属康耀堂美術館→❹与助尾根遺跡(縄文時代の復元住居)→❺茅野市尖石縄文考古館→❻神長官守矢史料館
遥か縄文の時代から、山の恵みを受けて暮らしてきた茅野。人々はただ恵みを享受してきたわけではありません。冷たすぎる山の水を温めて農業に使うための温水ため池や、茅野の隅々まで水を運ぶ「せぎ」とよばれる農業用水路。食料の採れない厳しい冬に備えるために、寒さと乾燥を活かしてつくった保存食の知恵。また、この地では生活の中心が稲作農耕に変わったあとも、縄文時代から続く狩猟文化を大切にしてきたことがわかる諏訪信仰の儀礼が残っています。さまざまな工夫で、ときには自然と渡りあいながらたくましく暮らしてきた茅野の人々の、生きる力にふれる旅です。
最初のスポットは、観光客に人気のスポット御射鹿池……と思いきや、バスは池を通りすぎ、さらに山の上へ。ガイドの案内でたどり着いたのは、川の水を「せぎ」とよばれる用水路に引き込む「取水口」。せぎを管理する笹原地区の方がガイドをしてくれるからこそ行ける、知られざるスポット。 ここからせぎを通って運ばれた水が、御射鹿池に流れ込んでいます。せぎがつくられたのはなんと江戸時代で、今もほとんどそのまま利用されているそうです。
そして御射鹿池へ。こちらは昭和の初期につくられ、冷たすぎる山の水をためて、お日様に当ててあたためるためのもの。ここから流れ出る水は、茅野市湖東の笹原地区で使われています。「ここの水は、我々の生命線なんです」と、笹原地区のガイドの方の言葉。
さらに少し足を伸ばして、御射鹿池のお向かいにある明治温泉旅館の目の前、「おしどり隠しの滝」を見学しました。滝を緑色に彩っているのは、酸性の水でしか生きられないというめずらしい苔「チャツボミゴケ」。これと同じコケが、御射鹿池の水底にびっしりと生えていて、御射鹿池が青々と美しく見えるヒミツなのだとか。
ガイドさんはそのまま、彼らが住んでいる「笹原」に、参加者を案内してくれます。笹原は標高1100m、立派な蔵や古民家が残る美しい村。
風情ある村の神社にお参りし、ふと視線をずらせば笹原の田畑の上に広がる八ヶ岳の大パノラマ。参加者が思わず感嘆の声を漏らすと、ガイドさんがすかさず「この美しい田園風景そのものが、御射鹿池の恵みと言えるんですよね」。参加したみなさん、深く納得した一幕でした。
八ヶ岳を愛する初代館長のコレクションを展示する康耀堂美術館では、学芸員の方に展示の解説をしていただき、日本画と洋画に分かれた静かで美しい展示室で、様々な手法の芸術にふれました。四季折々の姿を見せる八ヶ岳の麓の自然を実感したあとでは、ここを愛し、題材とする芸術家が数多くいたことがよく理解できる気がしました。
縄文時代のムラの様子を復元した与助尾根遺跡で出迎えてくれたのは、お馴染みの学芸員の山科さん。いきなり参加者のみなさんに「ドングリクッキー」を配りはじめます。「今回、エゴマを入れてみたので、少しは美味しくなっていると思いますけど……」参加者からは「意外とイケる!」という声が上がるものの、いつもこればかりでは……という雰囲気。 縄文時代の暮らしに欠かせなかったのは、クリやドングリの木、獲物となる動物、そして……水。「縄文時代の土器は素焼きなので、長い間水を入れておくことができなかったんです。なので、すぐに行ける場所に絶えない水が流れているというのはとても大事です」復元住居のすぐ近くを流れる小川を指さしながら、山科さんが解説します。
そして今度こそホンモノの国宝土偶にご対面。「国宝の土偶は360°どこからでも見られるように展示してあります。ビーナスはおしりが特に女性らしい感じですよねぇ」との言葉に、みなさん思わずうなずきます。二つの土偶の5,000年以上前につくられたとは思えないデザインセンスに、ため息を漏らす参加者たちでした。
時代は下り、江戸時代になっても鹿狩りはこの地で重要なものでした。守矢史料館の「御頭祭」の復元展示では、諏訪地域で鹿が神様へのお供え物として狩られ、お祭りのあとに人々に振る舞われていたことをお聞きしました。さらには、諏訪大社では「鹿食免(かじきめん)」とよばれるお札が頒布されていたことも教えていただきました。奈良時代以降、日本では仏教の影響があり、獣の肉を食べることが避けられる傾向がありましたが「鹿食免」は、鹿などの獣を食べることに神様のお墨付きを与えるというもので、農業に適する土地が少ない山間の諏訪地域にとっての狩猟の大切さを物語っていると言えるのでしょう。
最後に見学したのは、茅野出身の建築家、藤森照信先生が自分の土地につくった奇妙な茶室群。藤森先生は神長官守矢史料館の建物も手がけ、茅野には4つのフジモリ建築があることになります。フジモリ建築の特徴は、奇抜な外見のようでいて、しっかりと周囲の風景に溶け込んでいること。そのヒミツは、目に触れるところに焼き杉や土壁を模したモルタル、酸化して黒くなると徐々に周囲に馴染んでくる銅板などの自然の風合いを持つ素材を使っていること。 自然を利用したり感謝したりしながら、うまく渡りあい、したたかに、楽しく生きる。八ヶ岳の麓に生きる人の心意気が、ここにも現れていると言えます。
「笹原の案内など、通常の観光では見れないものが見れ、興味深かった」
「笹原を歩くのが、とても楽しかったです。ガイドさんが上手でこどもも楽しんでいました」
「地元民でもなかなか行けなかったり知らなかったりすることを深掘りした内容でおもしろかった」
「古い歴史を知り、奥の深さを知った。知らないことの多さに痛感」
「個人で訪れるだけでは知ることができない歴史や、地元の方々の生活を知ることができて楽しかった」
「5,000年前~現在にも続く、かなり長い時間の流れを「一筆書き」で実感できました」