茅野市ミュージアム活性化事業
ちのを編む 活動レポート
このまち「ちの」に、アートな視点できらりと光をあてる、宝探しの連続講座「アート×コミュニケーション茅野#3 ちのを編む」。ふだんの暮らしのなかで「こんな風にしてみたら面白いかも」「こんなところがあったらいいな」という、街のポテンシャル(潜在力)を見つけて、思い描いた夢を話したり、つないだりしてみようという内容で、2016年10月から2017年3月まで全5回、開催しました。
「編む」とは「編集する」こと。茅野市民館の設計に関わった建築家の三浦丈典さんをコーディネーターに、街を豊かにする活動についてゲストにお話をうかがい、クロストークで参加者の皆さんと語り合ってきました。
地域にもともとあるものを違った視点で見てみたり、組み合わせることで、ここにしかない新たな価値=宝を生み出す。参加者の皆さんによる「寒天博覧会inちの」といったスピンオフ企画も生まれ、茅野に潜む「宝の原石」に、新たな価値観で光をあてることが始まりました。
アート×コミュニケーション茅野#3 ちのを編む
2016年10月~2017年3月
- コーディネーター
- 三浦丈典(建築家・(株)スターパイロッツ代表)
- パネラー
- 北原享(株式会社イマージ 代表取締役)
八木佐千子(建築家・NASCA代表取締役)
三浦丈典
Takenori MIURA 建築家・(株)スターパイロッツ代表
1974年東京都生まれ。ロンドン大学バートレット校ディプロマコース修了、早稲田大学大学院博士過程満期修了。2001年~2006年までNASCA勤務。茅野市民館担当。2007年設計事務所スターパイロッツ設立。「道の駅FARMUS木島平」で2015年グッドデザイン金賞を受賞。著書に『起こらなかった世界についての物語』、『こっそりごっそりまちをかえよう。』など。
プレイベント
2016年10月29日(土) 茅野市民館 イベントスペース
ゲスト
宮崎晃吉
Mitsuyoshi MIYAZAKI 建築家 HAGISO代表
1982年群馬県生まれ。HAGISO代表。一級建築士事務所HAGISTUDIO代表。東京芸術大学建築科非常勤講師。京都造形大学非常勤講師。2008年東京藝術大学大学院美術研究科建築設計 六角研究室を修了後、2008年~2011年磯崎新アトリエに勤務。2013年より東京谷中にて、解体予定だった築58年の木造アパート「萩荘」を再生した「最小文化複合施設」HAGISOを設計・運営。
身の回りをゆたかな場所に
これからは編集する視点が必要。ものを持て余す状況になっている。所有するよりうまく使えるかどうか。建築家はものをつくるものだったが、これからは使い方のプロにならないと…と思っている。そこを拡張していくと街をどう使っていくかということにつながる。「HAGISO」は谷中にある築50年の建物。学生時代に共同で借りていた場所で、取り壊される予定だったものを、事業計画のアイディアを出し、最小文化複合施設として運営。カフェ、美容室、ギャラリー、宿泊施設があり、様々なイベントを行なっている。HAGISOを宿泊棟とし、周囲の空き家も使用してお風呂や食事はそれぞれ別の場所に出向いてもらう、街を丸ごと宿とする「アルベルゴ(=宿泊)ディフーゾ(=離れ)」を実践している。すでにあるものをしたたかに使っていくたくましさ。一見〈ごみ〉に見えるものに、どう価値を見出していくか。種を植え、ぎゅっと凝縮して花を咲かせ、その株を分けていく。目的は「身の回りをゆたかな場所にしていきたい」。リノベーションは手段のひとつで、手段はたくさんある。
「ないものねだり」から「あるもの探し」
- 北原
- 街を元気にしたい。いろいろなコミュニティのひとつとしてアートがある。元気な街というのは若い人が帰って来たくなるような街。きらびやかじゃなくても暮らしてみると「いいじゃん」って思えるような。
- 八木
- 「ちのを編む」というタイトルを考えた。茅野市民館の設計・建設に携わり、茅野には当時からいろいろな発見があった。すでに取り壊されてしまったものもあるが、まちと人を編んで行き魅力ももっと発見していきたい。
- 辻野
- 茅野に色々あるものを気づき直す、そういう編集作業をしていく。茅野は暮らしをエンジョイしていくプレイヤーが実は多い。そのエネルギーが表に伝わっていくと元気になっていくと思う。
- 三浦
- 「ないものねだり」から「あるもの探し」。まさに〈編む〉活動だと思う。新しいことを発明していく働き方。働き方とは生き方とほぼ同じ。
第1回
2016年12月11日(日) モチヨリチカバ(茅野駅西口近く)
ゲスト
柿原優紀
Yuuki KAKIHARA 編集・アウトドアウェディング たらくさ株式会社代表
1982年生まれ、大阪・神戸育ち。京都精華大学芸術学部卒業。いくつかの雑誌の編集、フリーランスを経て、編集事務所を設立し、日本の古き良き地域文化やくらしから学びを得たライフスタイルを提案する活動にシフト。2009年「Happy Outdoor Wedding」を立ち上げ、D.I.Yの力を地域空間や資源に結びつける地域型の結婚式づくりを、東京を拠点に全国各地でおこなっている。
アイディアで地域資源にストーリーを
アウトドアウェディングは、新郎新婦の友人や周囲の人たちで、地域の資源を結び付ける地域型結婚式。編集者の視点から「結婚式」に興味を持った。「ウエディングって商品である前に文化だよね?」と。リサーチ・取材・執筆・発信…を小さく始め、反響が出てきた。できることを分担してやる「Do It Ourselves」。だれかの祝いごとを力を合わせてつくり、それを子どもたちが見て参加するのもいい。誰かのHOW TOをほかの誰かのHOW TOにつなげたい。必要なものは自分で持っていなくても街にある。それを組み合わせていけばいいのでは。人に出会う→地域の魅力を知る→地域の課題を知る。周りをよく見て資源を見つけ、折れないハートでダイブする。「これしかない」を面白がって「ここでしかできない」ことをする。そういう、地域資源の「編み直し」。光が当たってないものに光を当てる。アイディアで地域資源にストーリーをつくる。ないものはあるもので置き換える。見せ方はいろいろある。
文化の生まれる場
- 三浦
- 子どもたちの3人に1人が今ない仕事に就くと言われている。「すでにあるもの」を上手に編集して使っていく、つくっていくことが大切。
- 八木
- 冠婚葬祭は子どもの頃は自宅で行なってきた。地域は文化の生まれる場でもある。そういうことを見直すと新しい出会いが生まれると思う。
- 参加者
- 楽しくいる空間が好きで「モチヨリチカバ」をよく使っている。人となにかをやったり形にするのも好きだけど、一緒にいるという、それだけでまた次にやりたいことができる。
- 辻野
- 「場」があって「人」がいて、でも続けていくのが難しい。「人手」の部分、支える手がすごく大切。
- 柿原
- 予想通りのふるまい。粋、贅沢、教養。でもいつもそれはつまらない。奇をてらって新しいものにするストーリーは、そのときだけで文化ではない。いつもの登場人物が違う役割っていうのがすごく面白い。流行りをつくりたいのでなく、文化になっていけばと思ってやっている。
第2回
2017年1月15日(日) ピアノマン(ベルビアB1F)
ゲスト
桑原康介
Kousuke KUWABARA 株式会社桑原商店to+代表
東京都出身。大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレで様々なアートプロジェクトや運営、商品開発、観光事業のマネジメントに従事。瀬戸内国際芸術祭、いちはらアート×ミックスにも携わる。2013年、家業の酒販店を母体とした会社の後継者として入社し、アート・デザイン関連の事業を新設。2015年、gallery to plusを東京・自由ヶ丘に開設。農林水産省6次産業化中央サポートセンタープランナー、茨城県北芸術祭ゼネラルマネージャー。
アートは人を巻き込む力がある
自分がわくわくする取り組みをしている。それぞれの立ち位置の専門分野の人と一緒に、クリエイティビティを発揮するプラットフォームをつくることを意識しながら、調整役・仲介者として活動している。言い換えると常に板挟み。「KENPOKU ART 2016(茨城県北芸術祭)」では地域の方々が積極的に動き、アーティストの制作に携わるようになり、既存の枠を超えたコミュニティが生まれた。これからの時代は独創的なアイディアが鍵。アートはそのヒントを与えてくれる。アートを通して新しい価値観や見過ごされてきた魅力が発見でき、様々な人を巻き込む力がある。地元の人がアート作品の制作に携わる際に、自らが持つ専門的な技を発揮したり、そこに住んでいる視点でおもしろい見方などを教えてもらえるとうれしい。「アートハッカソン」という考え方。いろいろな出自の人たちが一堂に会してチームを作り、地域の勉強をする。何をしたらおもしろいかディスカッションして新しいものづくりをしていく。こういった手法をもとに、産業・農業を考えると思いもよらないものができるかもしれない。あるものを活かしながら、そこに様々なアイディアをインストールすることで地域が元気になるきっかけが生み出されていくと思う。
地域のファンをつくっていく
- 参加者
- 船頭さんと漕ぎ手。漕ぎ手をあつめるマジックは?
- 桑原
- 明るく楽しく率直に話をしていく。大きなカテゴリーでくくらず一人ひとりと向き合ってやっていく。自分の地域のなかで活動が行われている、という観点で地域のファンにつなげていく。
- 北原
- 茅野はキャパシティのある土地になりつつあると思う。若い人でがんばっている人が多くなってきた。みんないろいろ思いながら地域とかかわっていこうとしている。
- 八木
- 茅野市民館の設計中に開催された計画策定委員会では市民たちと何度でも何時までも協議を重ねた。宮本常一さん著の「忘れられた日本人」に出てくる「寄り合い」を再現したかのようだった。茅野にはそういう気質が今でも残っていると思う。
- 参加者
- 棒寒天をつかった秋田のイベント「寒天博覧会」を茅野でもやりたいと妄想。秋田と茅野で交流重ね、棒寒天を通じて食文化だけじゃなく観光振興や移住、全体を元気にするつながりにできたらと考えている。
- 参加者
- 競争原理で棒寒天がなくなってしまったら、絶やしちゃいけないなあと感じた。ここでなければできないもの。茅野でしかない風景。地元の人に棒寒天があることを伝えていきたい。
- 桑原
- 棒寒天のおいしさや、素材としての可能性を、様々な属性の人たちとのヒアリングやディスカッションをして、新しいマーケットに向けた商品づくりをしていく必要性がある。おもしろい仕掛けや愛情を持って丁寧に作ったものは、必ず伝わっていくと思う。
第3回
2017年2月11日(土・祝) 荒神の民家(茅野市運動公園近く)
ゲスト
倉石智典
Tomonori KURAISHI 株式会社MYROOM代表
1973年長野市生まれ。長野高校卒業。慶応大学総合政策学部卒業。観光業、都市計画業、不動産業、建築業を経て、2010年に現在の会社を設立。 空き家の仲介、リノベーションを専門とする。長野では「門前暮らしのすすめ」と題して、毎月「空き家見学会」を開催。県内外から参加者が訪れ、街歩きをしながら「空き家」を案内。まちなかの空き家を「リノベーション」して、新しい利用者とマッチングし、まちに賑わいをつくっている。
「まちづくり」から「まち使い」へ
善光寺、門前町の不動産屋。おもしろい空き家をみつけてリノベーションしている。「まちづくり」といってる人はだれもいない。それより自分がやりたいことを好きにやって、街を使わせてもらっているという感覚がある。にぎやかな時代もあったけれど郊外化で10年前はこの街も終わりだとあきらめられていた。大きな青写真を描いたわけではなく、好き勝手にできることからばらばらとやり始めたところからは、街の形は変わっていないのだけれど、使い方や関わり方で少しずつ変わっていっているような感覚がある。空き家は問題ではなく資源。「古い」「寒い」、でも使い方の手段がいろいろ増え、違う価値観でとらえることもできる。きちんと計画して整備していくまちづくりの時代から、どうやって使いこなしていくかの「まち使い」が始まっている。現場で使いたい人が動き始めたところを下からサポートして使いこなしていく時代。空き家は困ったものではなく街並みをつくってきた文化。適正管理と有効活用の二本立てが大事。それぞれの地域で地理と歴史と文化のある建物が集積しているのを、ただ壊してしまうのはもったいない。
「好き」から気軽に何かを始めよう
- 八木
- リノベーション=即効性あるものと、新しくつくる=長いスパンで見るもの、その間をどう取り持つかが自分自身の課題だと思っている。
- 三浦
- 茅野はストリートに密集しているのではなく点々とポイントがあるようなエリア。なにか面白さは?
- 倉石
- 地域によってイメージの仕方は変わる。建物から入るか、そのまわりの地域から入るか。まずは街歩きをしてみたい。
- 参加者
- 生まれも育ちも茅野。茅野が大好きでゲストハウスをやりたい。物件探したり街を歩いたり、若い人と出会って話を聞くとあきらめている。ワクワクすること、チャレンジすることにハードルが高い感じがある。自分の興味で小さくでもやってみたら、というところを聞かせてもらってよかった。まずは自分たちがやってみるところかな、と思った。
- 三浦
- 資格や専門性は必要なく「好き」からやってみるのが講座の通底するテーマ。「気軽に何か始めよう」というのが一番のねらい。リアルな現象として始まるのが今回の目的。
第4回
2017年3月11日(土) 茅野市民館イベントスペース
ゲスト
加藤寛之
Hiroyuki KATO 都市計画家・(株)サルトコラボレイティヴ代表取締役
1975年千葉県千葉市生まれ。立命館大学政策科学部卒業。2008年株式会社サルトコラボレイティヴ設立。丹波市、伊賀市、枚方市、大阪市等で地域に新しいチャレンジを生み出す月1マーケットを開催。衰退地の潜在的な魅力を守り育てつつ、エリアの期待値を高めることにより、リノベーション等のリスクテイクが可能になるまちづくりに取り組む。
まちの「兆し」から「ファンづくり」
20世紀につくったものを21世紀に使いこなすという意味での都市計画家。地域にあるものをどういう視点でとらえ、どう生かすと地域が変わるのか、まちの「期待値」をあげる。地方の衰退の速度は速くまったなしの状況だが、仕組みをつくれば変えられる。まちに元気がない理由を原因ではなく現象で取り上げてしまいがちだが、本当の理由は、まちに求められている価値が変化したということ。まちの要素を再評価して新たなチャレンジが生まれる仕組みをつくり、新たなまちの価値を創造する。まちのなかにあるものに、まちの「兆し」がみえる。兆しのさきにある未来を想像し、将来のまちのファンを設定してみる。個店でなくエリアを対象として、ファンの視点で丁寧にその魅力を発信する。事業が成功したかどうかの判断はそこ。勘違いせず現在地を知ること。みんなのためにではなく「ファンづくり」に絞り、結果みんなハッピーになるようなプロセスを踏むのが大事。種をまく人=「シーダー」を探し、どこへ向かえばいいのかポジショニングする。集客ではなくファンづくりにつなげる。新しいお客さんを創造し「見える化」しないと。そのため新しいマーケットづくりが最優先。
茅野の「兆し」?「シーダー」は?
- 三浦
- 加藤さんは足をつかってマーケティングする。そういうのが好きだというのが伝わってくる。
- 加藤
- イベントをやって集客があっても次の日のお客さんにならない。プラットフォームをつくる。
- 三浦
- 茅野の「兆し」は?
- 北原
- 応援する力が必要。商圏について、場所ではなくて「シナリオ」というところに同感した。
- 八木
- 「シーダー」の考え方は合点がいった。ではどう見極めるのですか?
- 加藤
- 茅野の要素を500くらい出すと「こういう人?」というのが出てくる。
- 三浦
- 茅野も縄文のほかを見つけないと猶予がないのでは。新しい「シーダー」がないと。
- 加藤
- 縄文もひとつの要素で魅力だが、だれも良くも悪くもならないスケープゴートにしないこと。「誰に向けて」発信するのか。ほかにもある茅野の魅力が消えてしまわないように。
- 辻野
- 本質的なところにあるものを未来へ。新しい価値を生む感性を地域で持つことが必要と思っている。
- 参加者
- 「シーダーを探せ」は響いた。フェスは楽しいが、実生活に取り込むにはどうしたら?という視点。
協力:NASCA、株式会社イマージ
※当事業は文化庁「平成28年度 地域の核となる美術館・歴史博物館支援事業」の補助事業です。